値上げをして良いか悩んでいるなら、まず知ってほしい数字がある。「適切な理由があれば値上げを受け入れる」と答えた人は82.7%。5年前より23ポイントも増えている。それでも実際に値上げをした店の多くが客数を減らす。この記事を読み終えると、なぜその矛盾が起きるのかが分かり、自分の店でどのメニューから・どれだけ値上げすべきかを数字で判断できるようになる。
82.7%と76.3%のあいだにある分かれ目
矢野経済研究所の消費者調査では、理由があれば値上げを受け入れる人が82.7%いる一方、「理由もなく値段だけ上げた店には行かない」と答えた人も76.3%にのぼる。この2つの数字は矛盾しているのではなく、同じことを言っている。客が拒否しているのは値上げそのものではなく、「なぜこのメニューを、なぜ今、いくら上げたのか」が見えない値上げだ。
2026年7月は食品2,566品目が値上げされ、平均値上げ率は11%。原材料高は今後も続く見通しで、値上げを検討しない選択肢はほぼない。問題は「する・しない」ではなく「どこを・どれだけ」だ。
一律値上げが看板メニューを直撃する
貼り紙に「一部メニューの価格を改定させていただきます」と書いた翌日、常連客がレジの前に立つ。会計の瞬間、何も言われないまま「いつもの」を頼まれただけなのに、店主は妙に疲れている——そんな夜を経験した店主は少なくないはずだ。
厄介なのは、全メニューを一律で3〜5%上げるやり方だ。原価率が低く利益を稼いでいる看板メニューまで値上げの対象に入ってしまい、常連ほど値上げを敏感に感じ取る。実際、ある外食チェーンでは看板商品を含む値上げ後、7カ月連続で客数が前年割れした事例が報告されている。原価率が高くて薄利のメニューと、原価率が低く利益の柱になっているメニューを同じ幅で動かすこと自体が、判断としてずれている。
どこを・どれだけ上げるかを決める3つの視点
値上げ幅を決める前に、次の3つを分けて見る。
- 客層別の反応度:常連客は価格より「裏切られた感」に敏感。新規客は価格そのものに敏感。常連比率が高い店ほど、値上げより先に理由を示す設計が要る。
- 来店頻度別の影響:月1回の客と週3回の客では、同じ値上げ幅でも年間の負担額がまったく違う。頻度の高い客が使うメニューを優先的に据え置くと、離反リスクを抑えながら値上げできる。
- 原価貢献度別の優先順位:原価率が高く粗利を圧迫しているメニューから優先的に見直し、看板メニュー(原価率が低く粗利額を稼いでいるメニュー)は据え置くか、上げ幅を最小にする。
たとえば席数20・客単価4,000円のモデル店で月間来店数800人と仮定すると、看板メニュー以外の原価率が高い10品目だけを平均8%値上げした場合と、全30品目を一律3%値上げした場合とでは、月間の増収額はほぼ同じでも、常連客が値上げを感じる頻度に差が出る。同じ増収を狙うなら、感じ取られる回数が少ない設計のほうが離反リスクは小さい。
伝え方とタイミングで結果が変わる
値上げを伝える貼り紙を出すタイミングにも分かれ目がある。閑散期の月初に、理由(原材料費の高騰など)を一文添えて告知した店と、金曜19時の満席時にいきなり新しい価格表だけを差し替えた店とでは、同じ値上げ幅でも客の受け止め方が変わる。後者は会計時に「あれ、値段変わった?」と聞かれて説明が後手に回り、スタッフも気まずい思いをすることになる。理由を添えるかどうかで、76.3%側に回るか82.7%側に回るかが決まると考えていい。
実際の数字を使ったシミュレーション(許容できる客数減少率の計算式や、メニュー別の値上げ優先順位表)は、有料note版でさらに詳しく解説している。自分の店の数字に当てはめて計算したい人は、そちらも参考にしてほしい。
まとめ
- 値上げそのものではなく「理由の見えなさ」が客離れの原因
- 全メニュー一律ではなく、客層・頻度・原価貢献度で値上げ箇所を選ぶ
- 看板メニュー(原価率が低く粗利を稼ぐメニュー)は据え置くか上げ幅を最小に
- 告知は理由を一文添えるだけで受け止め方が変わる
- 閑散期に、原材料高騰など理由とセットで伝える
今日の営業後、メニュー表を原価率が高い順に並べ替えて、上位3品目だけに付箋を貼ってみてほしい。それが来週の値上げ候補の第一候補になる。看板メニューには触れず、そこから始めるだけで「なぜここを上げたのか」が自分の中でも説明できる状態になる。
メニュー単位の原価と粗利の見直しについては、飲食店の原価・値上げ経営コンサルティングでも個別に相談を受け付けている。
アッシェ企画では、原価率・人件費率・メニュー構成といった数字をもとに、値上げの判断だけでなく店舗運営全体の利益改善を支援している。元料理長としてリゾートホテル40カ所のマネジメントに携わった経験から、現場で実行できる粒度の提案を心がけている。値上げの判断に迷ったら、一度相談してみてほしい。


コメント