求人費と人件費を使っても採用・定着・シフトが安定しない飲食店オーナーへ。
この記事では「求人費を2倍にしても、辞める理由は消えない」を、読み物ではなく、自店の数字で判断して次の行動を決めるための材料に変えます。最後まで読むと、最初に確認する数字、今週実行する1項目、専門家へ相談すべき境界が分かります。
【数値の読み方】
この記事内の数値は、出典を明記した統計を除き、改善を保証する実績ではありません。条件を理解するためのモデル計算・試算例です。実際の結果は、業態、立地、営業時間、客数、価格、原価、人員構成で変わります。
金曜19時、ホールに一人しか立てていないのに予約は満席。厨房から「もう一皿待たせてください」と声が飛び、社長自ら皿を運んでいる。求人サイトの掲載費をこの半年で2倍にしたのに、応募はぽつぽつ、採用してもひと月で辞める。読み終える頃には、採用を増やす前に確認すべき「今いる人員でシフトが回るかどうか」の見極め方が手元に残るはずだ。
「人手不足」という言葉が覆い隠している中身
帝国データバンクの調査(2026年1月・2026年2月20日発表)によれば、飲食店の人手不足を実感している割合は89.2%で、全業種のなかで最も高い。ここだけ見ると「業界全体がとにかく人手を欲しがっている」ように映る。ところが同じ調査を非正社員(アルバイト・パート)に絞ると、人手不足の割合は59.1%まで下がり、しかも年々低下傾向にある。
つまり足りていないのは、シフトに入るアルバイトの頭数ではなく、店を任せられる正社員・中核人材の方だ。私自身、リゾートホテル7年の統括シェフパティシエ時代、1店舗あたり平均100万円以内の採用予算・人件費25%以内という制約の中で、派遣・アルバイトの面談から他店舗への出向調整まで担当してきたが、現場が本当に苦しくなるのは「アルバイトが集まらない日」ではなく「その場を判断できる人が一人もいないシフト」だった。求人費を上げて応募を増やす対策は、実はこの「中核人材の不足」にはほとんど効いていない。
採用を増やす前に、多能工化で埋まる穴を数える
人が足りないと感じたとき、多くの店がまず求人媒体を増やす。だが席数20・客単価4,000円程度の想定モデルで考えると、ホール1名・キッチン1名が同時に休んだだけで営業が回らなくなる店は、そもそも「一人一役」で固定されすぎている場合が多い。
ホールしかできないスタッフ、洗い場しか任せていないスタッフを、ドリンク提供とレジ締めだけでも兼任できるように育てておくと、急な欠勤1名分は吸収できることが多い。多能工化というと大げさに聞こえるが、実際にやることはシンプルで、繁忙期でない平日の2時間だけ、担当外の持ち場を一緒に立ってもらうだけでいい。3カ月ほど続けると、誰か一人が急に休んでも「今日は誰と誰で回すか」の組み合わせが増え、欠員のたびに求人を出す頻度そのものが減っていく。
時給を上げても人が来ない、という声の裏側
Z世代を対象にした調査では、給与よりも働きやすさを優先すると回答した割合が78%にのぼるというデータもある。時給を100円上げても応募が増えない、という相談を受けることが増えたが、これは決して求人媒体の質が悪いからではない。シフトの融通が利かない、休憩が取りにくい、といった働きやすさの部分が変わらないまま時給だけを積み増しても、候補者から見た店の印象自体は変わっていないケースが多いということだ。
面接の場で「時給はいくらですか」より先に「シフトはどれくらい融通が利きますか」と聞かれる回数が増えているなら、それは時給ではなく働き方の設計を見直すタイミングが来ているサインだと捉えていい。
実際にやるなら、まず何から手をつけるか
いきなりシフト表を全部作り直す必要はない。まずは直近1カ月のシフト表を見返して、「この人が休んだら回らない」という組み合わせが何日あったかを数えてみてほしい。週に2日以上あるなら、その持ち場を兼任できる人を一人育てるだけで、急な欠員に対する求人費そのものが減っていく可能性が高い。
どの持ち場をどの順番で多能工化していくか、シフトの人時売上高をどう計算して優先順位をつけるかは、店舗の規模や客層によって条件が変わる。実際の数値でシミュレーションした事例とチェックリストは、有料note版でケーススタディとして詳しく扱っているので、自店の数字に当てはめて考えたい方はそちらも参考にしてほしい。
まとめ
- 飲食店の人手不足実感は89.2%と高いが、非正社員に限れば59.1%まで下がる。足りないのは頭数より中核人材
- 求人費を増やす前に、多能工化で「誰かが休んでも回るか」を確認する
- 時給を上げても応募が増えないときは、働き方の設計そのものを見直すサイン
- まず直近1カ月のシフト表で「この人が休んだら回らない」日数を数えることから始める
今日の営業後、シフト表を開いて直近1カ月分を見返し、「この人が休んだら回らない」組み合わせが何日あったかを数えてみてほしい。その日数がそのまま、来月最初に多能工化すべき持ち場を教えてくれる。
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