内見の最後、不動産会社の担当者が「居抜きなので、そのままお使いいただけますよ」と笑顔で言う。造作譲渡料は周辺相場より安く、厨房もひと目きれいに見える。契約書にサインする手が止まらなかった——そんな経験がある人は少なくないはずだ。この記事を読み終える頃には、内見のその場で確認すべき3つの数字が分かり、開業後に数十万円単位の想定外コストを避けられるようになる。
造作譲渡料の安さは、判断材料の半分でしかない
造作譲渡料が相場より安いと、それだけで「お得な物件」に見えてしまう。だが譲渡料に含まれているのは、あくまで見える範囲の設備だ。厨房機器10台・客席20席の想定モデルで実際に見積もりを取ると、退去時の原状回復費用だけで70万円から150万円かかるケースがある。造作譲渡料が安くても、退去時の負担が重ければ、5年後・10年後の総コストは新装工事とほとんど変わらなくなる。
契約書のどこに原状回復の範囲が書いてあるか
原状回復の範囲は、多くの場合契約書の特記事項に小さく書かれている。「スケルトン戻し」なのか「居抜きのまま返却可」なのかで、退去時の負担額は数十万円単位で変わる。ここを確認せずに契約すると、閉店を決めたタイミングで初めて金額を知ることになる。
「掘り出し物」に見える物件ほど、値引きの理由を聞く
不動産ポータルに載っている坪単価だけでなく、同じ商圏の類似物件と比較する習慣も持っておきたい。造作譲渡料が相場より極端に安い物件には、たいてい理由がある。狭小な厨房動線や搬入経路の悪さなど、写真だけでは伝わりにくい要素が値引きの背景にあることが多い。
設備の残存耐用年数を確認しないと、開業半年で二重投資になる
厨房機器には、それぞれ法定耐用年数がある。冷蔵庫・製氷機はおおむね6年、ガスコンロは8年が目安になる。前テナントが8年使い込んだ設備を「動くから大丈夫」という説明だけで引き継ぐと、開業半年から1年でコンプレッサーが故障し、結局買い替えることになる。内見の際は稼働年数と、可能であればメンテナンス記録を確認しておきたい。
内見の場で聞くべき3つの質問
契約前に、次の3つは必ず確認しておく。
- 造作譲渡契約に含まれる設備の一覧と、修理保証の有無
- 退去時の原状回復義務の範囲(スケルトン戻しか、居抜きのままか)
- 前テナントの退去理由(閉店なのか、移転拡大なのか)
3つ目の質問は特に見落とされやすい。移転拡大による退去であれば立地や客層に大きな問題はないと判断しやすいが、閉店による退去であれば、その理由が家賃なのか客数なのかを不動産会社に確認しておく価値がある。
席数20・客単価4,000円の想定モデルで考えると、原状回復費100万円を家賃の上乗せなしで回収しようとした場合、月の粗利を3万円ずつ上積みできても回収に3年近くかかる計算になる。造作譲渡料の差額数十万円に気を取られて、退去時のこの負担を見落とすと、開業前の資金計画そのものが崩れる。
まとめ
- 造作譲渡料の安さだけで判断しない
- 原状回復の範囲を契約書の特記事項で確認する
- 設備の稼働年数とメンテナンス記録を聞く
- 前テナントの退去理由を必ず確認する
- 極端に安い物件は、値引きの背景を担当者に直接聞く
実際にどの物件で、どの数字を確認して、いくらの想定外コストを防げたのか。具体的な事例と原状回復費のシミュレーション2パターンは、数字つきで有料note版に書いた。
今日からできる行動はひとつだけでいい。今検討している物件があれば、次の内見で「退去時の原状回復範囲」を担当者に書面で確認することから始めてほしい。
アッシェ企画では、居抜き物件の見極めから契約交渉、開業後の原価・利益管理まで、飲食店経営を数字で伴走支援している。物件選びで迷ったときは、料金プランを確認のうえ、契約前に一度相談してほしい。

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