現場の問題を感覚ではなく数字と手順で整理したい飲食店オーナーへ。
この記事では「飲食店の防災BCP」を、読み物ではなく、自店の数字で判断して次の行動を決めるための材料に変えます。最後まで読むと、最初に確認する数字、今週実行する1項目、専門家へ相談すべき境界が分かります。
地震や豪雨のあと、飲食店では「店を開けるか」より先に、「安全に営業できる条件がそろっているか」を判断しなければなりません。停電、断水、通信障害では、止める業務と再開条件がそれぞれ異なります。
2026年夏には熊本県内で地震が続き、日本飲食団体連合会は被災した飲食店向けの特設サイトを開設しました。飲食店ドットコムの公開一覧でも、8月20日から23日に実施した「飲食店の防災意識について」のアンケートに222件の回答が集まっています。結果の詳細は会員向けのため断定できませんが、店舗防災への関心が集まっていることはうかがえます。
私は飲食業界で20年、元統括料理長として40拠点のマネジメントに携わってきました。複数拠点の運営では、現場の頑張りだけでなく、停止基準、担当者、連絡先、再開条件を先に決めておくことが重要です。この記事では、停電・断水・通信障害の3つを例に、飲食店の営業判断表を作る方法を整理します。
飲食店BCPの目的は「何を止め、いつ戻すか」を決めること
BCPは事業継続計画のことです。中小企業庁は「事業継続力強化計画」を、中小企業が取り組みやすいBCPと位置づけています。備蓄品を買うだけではなく、災害時に優先する業務、必要な人員・設備、代替手段、復旧までの手順を決めるものです。
飲食店では、優先順位を次の順番にします。
- お客様とスタッフの安全
- 食品衛生と二次被害の防止
- 正確な営業情報の発信
- 売上と在庫の保全
売上を守るために安全確認を省くのではなく、安全と衛生の条件を満たした範囲だけ営業するのが基本です。
停電・断水・通信障害の営業判断表
| 障害 | 停止を判断する主な条件 | 確認するもの | 再開条件 | 責任者 |
|---|---|---|---|---|
| 停電 | 照明、換気、冷蔵冷凍、加熱、消防・避難設備を安全に使えない | ブレーカー、庫内温度、ガス機器、避難経路、建物管理者の案内 | 設備の安全確認、温度管理、提供可能メニューを責任者が確認 | 店長+厨房責任者 |
| 断水 | 飲用に適した水、手洗い、洗浄、トイレの運用を確保できない | 給水状況、水質、手洗い、食器洗浄、製氷機、トイレ | 安全な水と衛生設備を確保し、必要に応じて保健所へ相談 | 店長+衛生管理担当 |
| 通信・決済障害 | 予約、注文、会計、緊急連絡の記録を正確に残せない | 電話、POS、決済端末、予約台帳、現金、手書き伝票 | 代替手段、精算方法、お客様への案内文を確認 | 店長+会計担当 |
停電は「庫内温度」と「設備安全」を分けて判断する
厚生労働省は、停電で温度が上がった冷蔵庫・冷凍庫内の食品について、浸水後の営業再開時には廃棄するよう案内しています。また、計画停電時の食品事業者向け通知では、停電前後の庫内温度を確認し、停電中は扉の開閉を控えることを示しています。
自店では、停電を確認した時刻、最後に確認した庫内温度、扉を開けた回数、食材ごとの廃棄判断を記録します。「見た目が大丈夫そう」ではなく、温度記録と食品の状態を責任者が確認してください。判断できない食品を提供しないことが最優先です。
断水は「飲用水がある」だけでは営業再開できない
厚生労働省は、浸水後の営業再開にあたり、電気・ガス・水道などの食品製造用水が確保できているか、施設・器具・食器の清掃や消毒ができているかを確認し、最寄りの保健所へ相談するよう案内しています。
飲料水の在庫だけで判断せず、手洗い、調理器具の洗浄、食器、製氷機、トイレまで確認します。担当者は衛生管理担当、確認期限は営業再開前、KPIは「未確認項目0件」です。
通信障害は「売れない」より「記録が残らない」を防ぐ
電気・水・設備が安全でも、POS、予約台帳、決済端末が使えなければ、注文漏れや二重会計、予約の見落としが起こります。平常時に、手書き伝票、現金釣銭、予約一覧の印刷、緊急連絡先の紙控えを用意します。
営業を続ける場合は、利用できる支払方法とメニューを入口・店内・SNSで同じ表現にそろえます。KPIは会計差額0円、未処理伝票0件、予約連絡漏れ0件です。
計算例:営業停止の一次影響を見える化する
BCPは損失を完全になくす計画ではありません。どの損失を先に抑えるかを決める計画です。まずは次の式で一次影響を試算します。
営業停止の一次影響=廃棄見込額+1日粗利×休業日数+緊急対応費
たとえば、冷蔵・冷凍食材の廃棄見込額8万円、1日粗利12万円、休業1日、清掃や代替備品などの緊急対応費2万円と仮定します。
- 廃棄見込額:80,000円
- 粗利減少:120,000円×1日=120,000円
- 緊急対応費:20,000円
- 一次影響:220,000円
これは実在店舗の実績ではなく試算例です。自店では在庫表、日次損益、保険内容、キャンセル対応費を使って置き換えてください。売上ではなく粗利で見ると、休業期間を短縮する設備や代替手段に、いくらまでかけられるか判断しやすくなります。
1枚の営業判断表に入れる8項目
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 目的 | 人命と食品衛生を守り、判断の遅れを減らす |
| 想定障害 | 停電・断水・通信障害 |
| 停止基準 | 設備・水・記録のどれが欠けたら止めるか |
| 再開条件 | 誰が何を確認したら再開できるか |
| 優先業務 | 避難誘導、火元確認、温度記録、営業案内 |
| 担当 | 店長、厨房責任者、衛生管理担当、会計担当 |
| 期限 | 判断表は7日以内、訓練は30日以内 |
| KPI | 安否確認率100%、未確認項目0件、会計差額0円 |
担当者が不在のときに止まらないよう、代行者も必ず決めます。判断表は厨房・事務所・クラウドの3か所に置き、月1回の店長会議で連絡先と設備情報を確認します。
7日以内に行う実行チェックリスト
- 避難経路と集合場所をスタッフ全員で確認した
- ガス・電気・水道を止める方法と担当者を決めた
- 冷蔵庫・冷凍庫の温度記録方法を決めた
- 営業停止・縮小・再開の条件を文章にした
- 保健所、建物管理者、設備業者、保険会社の連絡先を紙でも保管した
- POS停止時の手書き伝票と精算方法を用意した
- お客様向けの休業・再開案内文を作った
- 店長不在時の代行者を決めた
- 15分の初動訓練日を30日以内に設定した
まとめ:防災は備蓄量より「判断の空白」を減らす
停電、断水、通信障害では、同じマニュアルを読むだけでは判断できません。障害ごとに停止基準、確認項目、再開条件、担当者、KPIを1枚にまとめておくと、責任者が変わっても同じ基準で動けます。
最初から完璧なBCPを作る必要はありません。まずは3つの障害について営業判断表を作り、7日以内に連絡先と代替手段を確認し、30日以内に15分の訓練を行ってください。
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出典
- 気象庁「2026年8月 日本及びその周辺で発生した地震のCMT解」
- 日本飲食団体連合会「令和8年熊本地震特設サイト」
- 飲食店ドットコム「飲食店リサーチ」
- 中小企業庁「事業継続力強化計画」
- 厚生労働省「一般家屋や食品営業施設における浸水後の消毒の相談について」
- 厚生労働省「計画停電による食品等の温度管理について」
- 厚生労働省「災害時の食中毒予防のために」
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- 相談で決めること:現状のボトルネック/優先順位/7日以内の行動
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