昨日、商品別のABC分析をして「売れているのに利益が残らない商品」を見つけても、次に迷うのが、その商品を値上げするのか、セット化するのか、販売をやめるのかという判断です。
この記事は、原材料費と人件費の上昇に悩む小規模飲食店オーナー向けに、不採算メニューを感覚で残し続ける損失を止めるための判断手順をまとめたものです。読み終えると、1商品について「値上げ・セット化・廃止」のどれを14日間試すか決められます。
私は飲食業界に20年携わり、元統括料理長として40拠点のマネジメントを経験しました。調理師・製菓衛生師・宅地建物取引士・簿記2級・ビジネスマネジャーの知識も使い、メニューを売上順位だけでなく、粗利額と現場負荷の両方から見ることを重視しています。
結論:不採算メニューは3択を同じ表で比べる
最初に、対象商品を1品だけ選びます。全商品を一度に変えると、どの変更が販売数や利益に効いたか分からなくなるからです。まだ対象商品を選べていない場合は、先に飲食店のABC分析で、売上・出数・粗利額・提供時間を並べてください。
| 選択肢 | 向いている状態 | 変更前後で見る数字 |
|---|---|---|
| 値上げ | 注文数があり、値上げ後も1皿の限界利益を確保できる | 販売数、限界利益額、客単価 |
| セット化 | 単品の魅力はあるが、粗利の高い飲料や副菜と組み合わせられる | セット選択率、合計限界利益、提供時間 |
| 廃止 | 注文数も限界利益も小さく、仕込み・在庫・提供時間を圧迫する | 代替商品の販売数、廃棄、仕込み時間 |
ここでいう限界利益は、説明を簡単にするため「実売価格-注文が1件増えると増える費用」で計算します。食材費、包材、決済手数料などが対象です。家賃や固定給のように、商品を1品やめてもすぐ減らない費用は別に扱います。
値上げを選ぶ基準:販売数が何件まで減っても利益を保てるか
値上げは「上げ幅」だけでなく、値上げ後に許容できる販売数の減少まで計算します。
モデル計算:1,200円の商品を1,300円にする
以下は説明用の仮定であり、実績や成果予測ではありません。決済手数料は実売価格の3%として計算します。
- 現在価格:1,200円
- 食材・包材:540円
- 決済手数料:36円
- 1皿の限界利益:624円
- 月間販売数:180皿
- 月間限界利益:624円 × 180皿 = 112,320円
価格を1,300円にすると、決済手数料は39円、1皿の限界利益は721円です。現在の月間限界利益を維持するために必要な販売数は、次のとおりです。
112,320円 ÷ 721円 = 155.78…皿
端数を切り上げて156皿です。180皿から156皿まで、約13.3%の減少なら、単純計算では現在の限界利益を下回りません。値上げ後14日間は、売上ではなく販売数と限界利益額を同じ曜日構成で比較します。
ただし、主力商品の値上げが来店動機や他商品の注文に影響する場合、1商品の計算だけでは決められません。店全体の客数、客単価、再来店も確認します。
セット化を選ぶ基準:値引き後も合計利益が増えるか
セット化は「客単価が上がる」だけでは成功ではありません。セット値引き、追加食材、包材、決済手数料、提供時間を引いた後の合計限界利益で比べます。
確認する4項目
- 単品客のうち何%がセットへ移るか
- セット値引き後の1注文あたり限界利益はいくらか
- ドリンクや副菜の仕込み・提供時間が何分増えるか
- セット化でピーク時の提供遅れが増えないか
粗利の高い商品を付けても、セット値引きと作業時間で利益が消えることがあります。ピーク時に人手が足りない店は、1人時売上高と時間帯別の人員配置も一緒に見てください。
廃止を選ぶ基準:失う利益より空く能力が大きいか
原価率が高いだけで廃止すると、その商品が稼いでいた限界利益まで失います。廃止の判断では、次の式で比較します。
廃止で失う月間限界利益 < 代替商品の限界利益+減らせる廃棄・仕込み時間の価値
「仕込み時間が減る」は、空いた時間を別商品の製造、ピーク対応、早出削減などへ実際に振り替えられる場合にだけ効果として数えます。時間が空くだけで人件費も売上も変わらないなら、金額効果を先に計上しません。
また、看板商品や来店理由になっている商品は、単品の数字だけで廃止しません。注文者が一緒に頼む商品、口コミ、予約理由まで確認します。
なぜ今、全品一律の値上げを避けるのか
帝国データバンクの2026年2月調査では、飲食店の価格転嫁率は32.8%でした。また、同社の2026年9月調査では、主要食品メーカー195社で9月の値上げが4,923品目とされています。仕入れ上昇を吸収し続けるのは難しい一方、全商品を同じ率で上げると、注文される価格帯や商品の役割を崩すおそれがあります。
日本政策金融公庫の「生活衛生だより」も、価格帯を増やしすぎず、中心価格を分かりやすくする考え方を紹介しています。値上げ、セット化、廃止は1品単位で判断し、最後にメニュー全体の価格帯を整えます。
14日間の実行チェックリスト
- 対象商品を1品に絞った
- 実売価格、食材費、包材、決済手数料を確認した
- 1皿の限界利益と月間限界利益を計算した
- 販売数が何%減っても利益を維持できるか計算した
- 提供時間、廃棄、ピーク時の詰まりを記録した
- 値上げ・セット化・廃止のうち1つだけを14日間試す
- 変更前後を同じ曜日構成で比較する
- 限界利益、販売数、客単価、提供時間で継続・修正・中止を決める
自分で判断できる範囲と、相談した方がよい範囲
1商品の原価、販売数、提供時間がそろい、変更後の影響をPOSで追えるなら、まず店舗内で14日テストを始められます。
一方、原価表がない、セット注文の内訳が取れない、複数商品の仕込みが共通している、価格変更が客数やブランド全体へ影響する場合は、商品単体ではなくメニュー構成と現場オペレーションを一緒に整理した方が安全です。
まとめ:ABC分析の次は1商品・1変更・14日で試す
不採算メニューは、原価率だけで一律値上げしたり、感覚で廃止したりしません。1皿と月間の限界利益、販売数、提供時間をそろえ、値上げ・セット化・廃止を同じ表で比較します。
相談が向いているのは、売上はあるのに利益が残らない、商品ごとの原価や作業時間が整理できない、値上げ後の客離れが不安な小規模飲食店オーナーです。相談では、残す商品・直す商品・やめる候補と、最初の14日テストを整理できます。
ご準備いただくのは、直近1〜3カ月の商品別販売数、現在価格、食材・包材原価、メニュー表、分かれば提供時間です。数字がそろっていなくても、分かる範囲から不足項目を切り分けます。LINEで状況を確認した後、相談で整理する範囲を決め、必要な場合だけ支援内容をご案内します。

