2026年度の地域別最低賃金は、47都道府県の答申ベースで全国加重平均1,177円、前年度から56円引き上げとなりました。各地域では2026年10月1日から12月2日までに順次発効予定です。
人件費が高いと感じている小規模飲食店オーナーに必要なのは、すぐに人数を削ることではありません。この記事では、「1人時売上高」を使って、どの時間帯の配置・作業・売上を見直すべきかを5ステップで判断します。
私は飲食業界で20年、元統括料理長として40拠点のマネジメントに携わってきました。人員配置は、人数だけを見ると現場を崩します。売上、総労働時間、業務量を同じ時間帯で比べることが出発点です。
注意:1,177円は答申された都道府県別金額の全国加重平均で、全国一律の現在額ではありません。実際の最低賃金額と発効日は、勤務先所在地を管轄する都道府県労働局の最新情報を確認してください。
人件費率だけでは「どこを直すか」が分からない
人件費率は、売上に対して人件費がどれくらいかを示します。
人件費率 = 人件費 ÷ 売上高 × 100
しかし、人件費率が高い理由は一つではありません。
- 売上が少ない時間帯に人が多い
- 仕込みや締め作業に時間がかかる
- 欠員対応で残業が増えている
- 客数はあるが、注文・提供が遅く回転を逃している
- 人員は適正でも、客単価や商品構成が弱い
そこで、人件費率と一緒に「1人時売上高」を見ます。
1人時売上高とは
この記事では、次の式で定義します。
1人時売上高 = 対象時間帯の売上高 ÷ その時間帯に投入した総労働時間
例えば、12時から13時の売上が6万円で、5人が1時間働いた場合は、6万円÷5人時=1万2,000円/人時です。
これは法律上の統一指標や全国共通の適正値ではありません。業態、客単価、原価率、社員比率、営業時間によって適正水準は変わります。外部の平均値だけで良し悪しを決めず、同じ店の曜日・時間帯・4週間の変化を比べてください。
最低賃金+56円で、人件費はいくら増えるか
まず、賃金改定の影響を自店の勤務時間で試算します。以下は全国加重平均の引上げ額56円を使ったモデル計算で、実際は各地域・各スタッフの時給差で計算します。
5人が月120時間働くモデル
- 対象人数:5人
- 1人あたり月間労働時間:120時間
- モデル引上げ額:56円/時
- 月間増加額:5人×120時間×56円=3万3,600円
- 年間増加額:3万3,600円×12か月=40万3,200円
これは賃金本体だけの単純計算で、社会保険料、残業・深夜割増、昇給差などを含みません。実額は給与台帳と予定シフトで確認してください。
全店の利益余力が分からない場合は、先に飲食店の営業利益率を3数字で診断する手順で月次損益を確認します。
ステップ1:売上と労働時間を同じ単位にそろえる
POSの売上を1時間ごとに出し、勤怠データから同じ時間帯の総労働時間を集計します。社員・アルバイトを分ける前に、まずは店全体の人時をそろえます。
| 時間帯 | 売上 | 投入人時 | 1人時売上高 |
|---|---|---|---|
| 11〜12時 | 2万円 | 4人時 | 5,000円 |
| 12〜13時 | 6万円 | 5人時 | 1万2,000円 |
| 13〜14時 | 3万円 | 4人時 | 7,500円 |
| 14〜15時 | 1万円 | 3人時 | 約3,333円 |
この日の合計は売上12万円、16人時なので、平均は7,500円/人時です。平均だけでなく、14〜15時が低いことまで見えるようになります。
ステップ2:低い時間帯を「客数・客単価・作業」に分ける
1人時売上高が低い時間帯を見つけても、すぐにシフトを削りません。次のどれが原因かを確認します。
- 客数:そもそも来店が少ない
- 客単価:注文は入るが粗利の小さい商品へ偏っている
- 作業:仕込み、清掃、発注、締め作業が集中している
- 処理能力:ピーク時に提供が遅く、注文機会を逃している
売上が低くても、翌日の仕込みをしている時間なら単純な削減は危険です。作業一覧を作り、「営業に必要」「別時間へ移せる」「やめられる」に分けます。
ステップ3:人数削減より先に、作業を移す
低い時間帯の作業を減らす方法を先に考えます。
- 発注時刻を固定し、確認回数を減らす
- 仕込み量を販売予測と連動させる
- 開店・閉店チェックを1枚にまとめる
- 盛り付けや受け渡し位置を近づける
- ピーク前に補充を完了し、営業中の往復を減らす
作業を移した結果として必要人時が減るなら、将来シフトの配置を見直します。契約済みの労働条件を一方的に変更する前提にはせず、就業規則・雇用契約・法定労働時間・休憩を確認し、必要に応じて社会保険労務士や労働局へ相談してください。
ステップ4:売上側の改善を同時に試す
1人時売上高は、人時を減らすだけでなく売上を増やしても改善します。
- 注文が集中する商品の仕込みと導線を優先する
- セット提案で注文時間を延ばさず客単価を上げる
- ピーク前後の予約枠やテイクアウト受取枠を設計する
- 提供時間が長い商品をピーク時だけ見直す
ランチを短縮・中止する判断まで進む場合は、ランチ営業をやめる前に確認する3つの数字も使い、減る売上と実際に減らせる費用を比較してください。
ステップ5:2週間だけ試し、同じ指標で再測定する
曜日・天候・予約状況で数字がぶれるため、1日だけで結論を出しません。まず2週間、変更前後を同じ曜日・同じ時間帯で比べます。
確認する4項目
- 1人時売上高
- 売上高と客数
- 提供時間・待ち時間
- 残業時間とクレーム・欠品
先ほどの例で14〜15時を3人時から2人時へ変更し、全体売上12万円を維持できた場合、全体は16人時から15人時になります。1人時売上高は7,500円から8,000円となり、約6.7%上がります。
ただし、待ち時間や残業が増えたら成功ではありません。売上・サービス・スタッフ負担を同時に見ます。
当日やるチェックリスト
- 勤務先地域の最低賃金額と発効日を確認した
- 賃金改定後の月間増加額を予定シフトで計算した
- POS売上と勤怠を1時間単位にそろえた
- 低い時間帯を客数・客単価・作業に分けた
- 削る前に移せる作業を決めた
- 2週間の試行条件と比較指標を決めた
- 労働条件・休憩・法定時間の確認先を決めた
自店でできる範囲と、支援を使う判断基準
時間帯別売上と総労働時間を集計し、低い時間帯を見つけるところまでは自店で進められます。
一方、次の状態なら第三者と数字を整理する意味があります。
- 人件費率は高いが、どの時間帯が原因か分からない
- 人を減らすと提供が崩れ、増やすと利益が残らない
- 社員とアルバイトの役割が重なっている
- シフトだけでなく、メニュー・導線・営業時間も同時に見直したい
人件費を削る前に、時間帯別の数字を整理しませんか
C’est parti&HのLINE無料相談では、人件費率・1人時売上高・時間帯別採算を整理します。対象は、人件費が上がる一方で、どの時間帯・作業から直すべきか決められない小規模飲食店オーナーです。
直近4週間の時間帯別売上、勤怠、予定シフト、月次損益をご用意ください。最初に数字を確認し、自店で直せる範囲と、継続支援が必要な範囲を分けます。労務上の個別判断は、社会保険労務士や労働局など適切な専門先をご案内します。
まとめ
最低賃金の上昇局面で、人件費を人数だけで調整すると、ピークの売上や現場の安定まで失うおそれがあります。人件費率に加えて1人時売上高を時間帯別に出し、客数・客単価・作業へ分解してください。
見る順番は、売上と人時をそろえる、低い時間帯を分解する、作業を移す、売上側も試す、2週間後に再測定する、の5つです。数字を同じ単位で見れば、単純な人員削減以外の選択肢が見えてきます。

